稽古場をひらく会:「公開稽古:新作公演読み合わせ」(石塚晴日/ぺぺぺの会)
12月の新作公演に向けた、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」の全6回のレポートを以下の皆様に執筆いただくことになりました!(敬称略)
①身体から演技の方法を考える
中島梓織/いいへんじ主宰・劇作・演出
②新作のための脚本トーク
秋山竜平/脚本家
③新作のための美術・照明ミーティング
佃直哉/かまどキッチン・ドラマトゥルク / 企画制作
④新作公演読み合わせ
石塚晴日/ぺぺぺの会・俳優・制作
⑤新作公演立ち稽古
藤田恭輔/かるがも団地・自治会長
⑥“稽古場をひらく会”のフィードバック
中島梓織/いいへんじ主宰・劇作・演出
このレポートは、「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」がどのような時間だったのか、
お越しいただけなかった皆様にも知っていただくことを目的としています。
また、贅沢貧乏として初めての試みを、他劇団/他分野で活動されている皆さんに見ていただきレポートを書いて頂くことにより、
稽古場を観客にひらくという催しがより広がれば面白いのでは!という思いから企画しました。
第四回のレポートは、ぺぺぺの会の石塚晴日さんです!
開催概要:
稽古場をひらく会:「公開稽古:新作公演読み合わせ」(石塚晴日/ぺぺぺの会)
初めまして、石塚晴日です。ぺぺぺの会という劇団で俳優と制作をしています。
9/7(土)に行われた「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」の「04 新作公演読み合わせ」を見学してきました。「どんな会だったのか?」「贅沢貧乏の方々の取り組みを見てどんなことを考えたのか?」についてレポートしていきますね。
「贅沢貧乏の稽古場をひらく会」とは、12月に上演する「おわるのをまっている」の稽古やクリエーションなどの創作過程を、一般の方々に向けて公開するという取り組みです。これまでに、身体からアプローチした役作りや演技方法を探求する「workshop」や、映画監督の長久允さんを迎え、新作戯曲の感想を伺いブラッシュアップするための「脚本トーク」も実施しています。
<過去の稽古場をひらく会のレポート一覧>
「身体から演技の方法を考える」WS(中島梓織/いいへんじ)
https://zeitakubinbou.com/archives/blog_posts/openstudio2024_report01
「公開会議:新作のための脚本トーク」(秋山竜平/脚本家)
https://zeitakubinbou.com/archives/blog_posts/openstudio2024_report02
「公開会議:新作のための美術・照明ミーティング」(佃直哉/かまどキッチン)
https://zeitakubinbou.com/archives/blog_posts/openstudio2024_report03
目次
(1)新作「おわるのをまっている」はどんなお話?
(2)どんな会だったの?
稽古場をひらく=イメージを共有できる
稽古場をひらく=演技の理由がわかる
稽古場をひらく=劇団の魅力が伝わる
(3)なぜ稽古場をひらくのか?
(1)新作「おわるのをまっている」はどんなお話?
派遣社員のマリ(綾乃彩)は、会社員のヨウ(薬丸翔)と共に暮らしている。マリは現在鬱(うつ)状態にあり、休職中。
そんな中、ヨウが1ヶ月ほど海外出張へ行くことが決まる。気分転換にもなるし鬱もよくなるかもしれないからとヨウに誘われ、マリは一緒に行くことにする。
しかし、滞在先のホテルは少しおかしなホテルだった。隣室には猫を探し続けている女(銀粉蝶)や、掃除をしても綺麗にならない掃除係、記憶にない昔の友人が現れる。マリはそんなものたちに煩わされながら、部屋にぽっかりとあいた穴に気づき──。(HPにあるあらすじを引用しました。)
(2)どんな会だったの?
作・演出の山田由梨さん、出演者の綾乃彩さん、薬丸翔さん、大竹このみさん、田島ゆみかさん、青山祥子さん、武井琴さん、音楽の金光佑美さん、プロデューサーの堀朝美さんが集まりました。会場は30人以上のお客さんで賑わい、始まる前から声を掛け合ったり、お話をしたりと、あたたかい居心地の良い雰囲気でした。
出演者の自己紹介を終え、早速、新作の「おわるのをまっている」の本読みが始まりました。プレ稽古を1週間ほど実施した後の公開読み合わせで、物語の主軸を担うマリ(綾乃彩)とヨウ(薬丸翔)の配役のみ決定していましたが、劇団員の配役はまだ迷っている最中とのことでした。
1 稽古場をひらく=イメージを共有できる
読み合わせは物語の冒頭から始まりました。鬱病で休職し療養しているマリ(綾乃彩)がソファから体を起こして、観客に語りかけるシーン。
「こんな格好ですみません。失礼します。ちょっと聞いてみたいんですけど、こんなことってありますか? 冬に、寒くて寒くて、なかなか布団から出られないこと。それは、まあありますよね。じゃあ、こういうときはありますか? 寒い冬の日、あったか靴下を履いて、ソファで毛布をかけて横になっていたんだけど、あったか靴下をはいていても足が寒くて、それをあっためたくてすりすりしている。そしたら、靴下が毛布の中で脱げてしまって、裸足になって、そしたら余計に足がつめたくて動けない、もうそうなってから、2時間くらいが経っていて、このまま1日が終わるんじゃないかなという感じで、どうしようもない。っていうこと、ありますか? わたしはあります。」
マリは日常の無力感を観客に強く訴えかけますが、それに反して、履こうとした靴下は思い通りに履けず、勝手に舞台上の穴の中にするりと入っていってしまいます。
俳優の声を聞きながら舞台上の演出の様子を想像すると、シーンが頭の中で立体的に現れるようでした。シーンを想像しながら、実際の公演ではどのようになるだろうとワクワクしました。
「おわるのをまっている」の公演チラシにも靴下の絵が描かれています。読み合わせを聞きながら感じた、靴下も上手く履けないやるせなさや無力感、社会に取り残されてしまっているような寂寞感と暗闇にポツンと落ちている靴下の絵が結びつきました。
2 稽古場をひらく=演技の理由がわかる
次は、ヨウ(薬丸翔)が休職中のマリ(綾乃彩)に、気分転換に会社の海外出張に同行しないかと誘うシーン。マリは無力感をコントロールできず、「何もできないことが嫌だ」とフラストレーションを夫のヨウにぶつけます。
ヨウ 「気分転換になるよ、きっと。環境変えたら。あ、小説またちょっと書いてみるとかしたくなっちゃうかもよ?ちょうどいいじゃん、ホテルで缶詰みたいな、作家みたいな感じでさ」
マリ 「もう別に、かかないし」
ヨウ 「そう?書きたいって言ってたじゃん」
マリ 「もういいの。あのさ…暇でもいいんだよっていうのってさ…」
ヨウ 「ん?」
マリ 「さっきの、暇でもいいんだよっていうのってさ、暇じゃない人がいうと説得力ないよね」
ヨウ 「え?」
マリ 「何にもせずにゆっくりしなよっていうの、それってなんか無責任だよね」
ヨウ 「なんでよ、実際(そうでしょ)」
マリ 「そうなんだけど、そういうふうに時間が過ぎていくのが不安なの、だって今日もなんもしないでもう4時だし」
ヨウ 「別におれだって今日なんもしてない」
マリ 「今日が休みだからでしょ?」
ヨウ 「マリだって休みでしょ」
マリ 「ずっと休みだよ!」
ヨウ 「…(なにをいっても無駄だと感じる)」
このシーンやその他のシーンのフィードバック(以下FB)の中で「内臓エモーション」という贅沢貧乏オリジナルの言葉が多用されていました。「内蔵エモーション」とは、「みぞおちに何かが刺さっている」「肺が燃えている」ような体の状態をイメージして、演技の変容を促す劇団独自の演出方法です。
このシーンの中でヨウ役の薬丸さんは「胃がちくちく傷んでいる」状態にあることをイメージしながら台詞を読んでいたそうです。演技の理由や原動力が分かり、公演を迎える頃にはどんな体の状態を選んで演技を構築していくのか楽しみです。
(3)なぜ稽古場をひらくのか?
このように上演するだけに留まらず「創作過程をひらいていく」取り組みを行う団体は増えているように思います。実際に、私の所属しているペペペの会でも、「けいこばツアー」と称して稽古場を自由に見学できる日を設定しています。また、近作「『またまた』やって生まれる『たまたま』」では、インタビューをもとに作品を創作しました。そのインタビューを上映したり、創作のために行なったインタビューを観客が体験できるようにしたりと、観客が上演だけでなく創作過程も楽しめるような公演を実施しました。こういった団体や取り組みがなぜ増えているのか、ちょっと考えてみました。
①稽古を収入源として活用する
当たり前のことですが、演劇は上演されなければ収入を得ることができません。チケットの値段×客席の数×ステージ数がその公演の大体の収益です。映画やドラマとは違って、演劇は稽古があるので拘束時間が長いのが特徴です。そのため、稽古をできるだけ少なくすることで、より効率的に利益を増やすことができますが、稽古時間を短くすれば作品の質は落ちてしまうし、効率的に稽古を行うことでメンバーとコミュニケーションを取る時間は少なくなってしまうので、簡単に稽古の数を少なくすることはできません。
収入を増やすには、チケットの値段・客席の数・ステージ数のうちのどれかを増やさないといけないけれど、会場費や拘束日数の増加など、その分コストもかかってしまいます。そこで、稽古を有料化すれば、もともとあった稽古の数はそのままに、それを公開することで利益を増やすことができます。「稽古場をひらく」取り組みは、非効率な(のがよい)演劇づくりを、無理に効率的にすることなく行い、持続しやすい演劇づくりを可能にするものなのです。
②不便な演劇を演劇特有の価値と認める
演劇よりも手軽に安く楽しめるものが増えた昨今、何が演劇の強みで、何が演劇としての価値なのかと考えた時、その不便さであると考えます。他の娯楽より時間や労力のかかる演劇。長い時間座って見ないといけないことや、劇場に行かないと見られないことを価値と捉えて、その場所で観客と作り手が共に過ごす時間や、それによって生まれる一体感、そこから派生する交流や繋がりを公演としてより分かりやすくデザインしていく。時間と労力がかかることに嘘をつかず、面白いことと捉えて、観客と作り手が密に時間を過ごせる演劇を売り出すことは、演劇が演劇のままに存続できる1つの方法であると思います。
「ここで、もうすこし踏み込んだこと、というか、本音を言ってしまうと、実は創作過程の時間にはとても「価値がある」と思っています。
もっと言うと、それは「お金を払って見る価値」です。ちょっとどきどきしながら言っていますが、でも本当にそうだと思います。」
山田さんがステートメントで勇気を持って書いてくださったこの言葉に、私は励まされ、強く頷きました。
タイパ・コスパの先にある演劇の楽しみを観客と共に作り、共に上演を待ち遠しくデザインできる贅沢貧乏の皆さまの取り組みに、応援とありがとうの気持ちでいっぱいです。
執筆者:石塚晴日
1997年、新潟生まれ。ぺぺぺの会に所属(企画制作・俳優)。抗原劇場、終のすみかなど多くの劇団にて制作として伴走。
2024年5月まで小学校の教員として働き、現在はフリーの舞台芸術制作者として活動。
主な活動に、2023年東京芸術祭実行委員会会場調整アシスタント、アートマネージャーメンターシッププログラム『バッテリー』参加(主催:一般社団法人ベンチ、NPO法人Explat)、2024年度いわきアリオス演劇部+ カンパニー制作、2024年度東京芸術劇場芸劇舞台芸術アカデミーに参加などがある。
11/27〜12/2に早稲田小劇場どらま館にてぺぺぺの会といいへんじとの共同企画『LifeとWork』を上演。
(詳細:https://pepepepepe.amebaownd.com/posts/54814369)
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